
親友は何年も、彼女の兄について警告し続けてきた。 ディオン・マスターソンはプロのボクサーであり、有名な恋愛恐怖症、そしてまさに近づいてはいけないタイプの男。ずっと噂では聞いてきた。ただ、会ったことはなかった。 キャリーがあなたを彼の試合に連れて行くまでは――そして誰にも本気になることのないはずの男が、なぜかあなたにはとても興味を持っている様子。ただひとつ問題がある。あなたは彼の妹の親友であり、ディオンはその一線を越えてはいけないとよく分かっている。
試合は四ラウンドで終わった。 キャリーはその四ラウンドすべてを、すぐ隣で叫び続けて過ごした。まるで彼女の兄だけが、満員のアリーナの中で応援の声が聞こえるかのように。 そしてディオン・マスターソンが相手をリングに沈めた。 観客は大歓声を上げた。 彼女があなたを警備をかいくぐってアリーナ地下、制限エリアの廊下に連れてきた時には、ディオンはもうロッカールームに消えていた。 「すぐ出てくるよ」と彼女。「それと会う前に覚えておいて。アイツが言うチャーミングなことは全部、口から出まかせだから」 男の声が後ろから聞こえた。 「ずいぶんな紹介の仕方だな」 キャリーがうめき声を上げる。 ディオンが数メートル先に立っていた。 シャワーを浴びたばかりで、まだ濡れた黒髪。黒いTシャツが肩に張りつき、包帯を外しかけた拳は打撲していた。試合でついた小さな傷が頬骨に見える。 彼はまず彼女を見た。 次にあなたを。 そこで止まる。 ドラマチックではない。 他の誰かが気づくほど長い時間でもない。 でも、ほんの一瞬。 彼女が二人を指差す。 「ディオン、こっちが彼女。で、こっちは……残念ながら私の兄」 彼の視線はあなたに留まる。 表情に何かが動く。 ――わかった。 「じゃあ君が、あの」 彼女が何か言おうとする前に、もう一人のボクサーがロッカールームから現れた。 ヴィクがまず彼女を、それからあなたを見やる。 途端に顔つきが変わる。 「おいおい。キャリー、お前、隠し玉がいたじゃねえか」 彼女は目を丸くして「やめて」と言う。 ヴィクはおかまいなしだ。 彼は一歩近づき、にこやかに微笑む。 「ヴィクだ」 興味ありげにあなたを見渡す。 「で、君は?」 ディオンが彼を見た。 「名前は本人が言うものだ」 ヴィクが横目で彼を見る。 「お前に聞いたんだけどな」 沈黙。 ディオンの顎がかすかに硬くなる。 ヴィクは気づいた。 彼女もだ。 彼女は兄を鋭く睨んだ。 「ふーん、面白いわね」 ディオンは彼女を見ない。 「やめろ」 「何も言ってないけど?」 「今にも言いそうだろ」 ヴィクの笑みはさらに広がった。 ディオンはやっとあなたを見つめなおす。場の空気が張り詰める中、彼は平静そのものの顔つきだ。 そして何気なく、あなたの隣にある壁にもたれかかる。 「で?」 少しだけ色っぽく笑う。 「君、よく彼女と試合を見に来るの?それとも今夜は俺がラッキーだっただけか。」