
あなたの彼氏はパーティーのステージ上で、みんなの前で関係を終わらせた。そして、あなたをプールから引き上げてくれた男は、そのことについて一言も語っていない。
アシュコム大学3年生のあなたにとって、何も特別な年にはならないはずだった。 あなたは学生団体のリーダーでもない。 キャンパスのアスリートでもない。 いつも注目の的というわけでもない。 ただ他の多くの学生と同じように、大学生活を送っている。 授業に出る。 課題をこなす。 カフェテリアで食事する。 家に帰る。 シンプルだ。 それが…ドイル・フェンウィックがあなたの人生に現れるまでは。 ドイルはあなたとは正反対の存在。 トラブルメーカー。 自信家。 人気者。 手に負えない男。 そしていつも女の子に囲まれている。 あなたたちが付き合い始めたとたん、キャンパス中があなたの名前を知っているように感じられた。 「ドイルの彼女だよ」 「マジで?あの子が?」 「運が良いね」 中には嫉妬する女子学生もいたし、 見下す人もいた。 でも実は最初から、その恋愛は賭けだったなんて、誰も知らなかった。 ドイルが友達とした賭け。 そして今夜、その賭けの終わりとなる。 --- ドイルの誕生日パーティーは、その日のためだけに借りられた豪華な邸宅で開催された。 バックヤードには音楽が満ち、庭のライトが大きなプールを照らしていた。 人気者の学生たちが各所を埋め尽くし、インフルエンサーたちは写真撮影に忙しい。 アスリートたちはバーの近くに集まり、ほかの学生たちは中庭で踊っていた。 そして庭の一角には、誰もが一目で気づく六人の男たちが立っていた。 「カルダー・シックス」 アシュコム大学で顔だけでなく、バスケットボールでの活躍、家柄、人脈、影響力で有名な六人の学生たち。 その中に、クリストバル・バリエントスの姿があった。 バスケットボールチームのキャプテン。 彼はトップボタンを数個開けた黒いシャツを着ていた。暗い色のブレザーはいまだ身体にまとっている。 その顔つきは無表情。 まるでこのパーティーになんの興味もないかのよう。 しかし時折… 彼の視線はあなたに向かう。 ほんの数秒だけ。 すぐまた仲間たちへと戻る。 「誰を見てるんだ?」 声にクリストバルは顔を向けた。 「誰でもない」 「本当に?」 クリストバルは無表情のまま見つめた。 「うっとうしい」 友人はくすっと笑った。 --- 数分後、突然音楽が小さくなり、 ドイルがプールそばの小さなステージに上がった。 「みんな、ちょっと聞いて!」 人々が少しずつ話すのをやめた。 ドイルは笑顔を見せる。 「俺のバースデーパーティーに来てくれてありがとな」 歓声が響く。 ドイルは隣の女の子に腕を回した。 あなたが初めて見た女の子だった。 「実は、今日はお知らせが一つあるんだ」 そしてドイルの視線があなたに向いた。 その笑顔が変わる。 「俺と彼女の関係は…」 そこで言葉が途切れる。 「…今夜で終わりだ」 会場が、一瞬にして静まり返る。 ドイルは軽く笑ってみせた。 「驚くなって」 「実は最初から…」 隣の女の子の肩に手を置く。 「…彼女はただの賭けだった」 笑いだす人もいれば、そうじゃない人もいた。 バーの近くで「最低だな」とはっきり言う者もいたが、 ドイルは話し続けた。 「マジかよ?」 「ひでぇな」 「あの子可哀そう」 ドイルは肩をすくめた。 「どれだけ俺が本気だと信じるか、興味があっただけさ」 ひそひそと話し合う声も増す。 「最初から賭けだったのか?」 「納得だな」 「可哀そうに」 ドイルは満足げに笑う。 「これで俺の勝ちだ」 その女の子をぐっと引き寄せて、 「紹介する。 こいつが本命の彼女、ネッサ・コリスだ」 再び人々はざわめき、スマホを構える者やあなたをじっと見る者も。 その女の子が近づいてくる。 彼女の笑みは薄かった。 「失礼するけど」 あなたの前で足を止める。 「そろそろ、身を引くべきじゃない?」 そうして濡れたタイルを通り過ぎるとき、あなたのかかとはプールのぎりぎりに バランスを崩した。 SPLASH! あなたはプールに落ち、 冷たい水が全身を包む。 濡れたドレスはどんどん重くなり、 頭上の音楽もだんだん遠くなる。 視界がぼやけていく。 プールの上は騒然とする。 「落ちたぞ!」 「泳げるのか?」 「誰か助けて!」 でも、すぐに飛び込む人はいなかった。 みんな立ち尽くしている。 見ているだけ。 そのとき— THUD. 黒いブレザーが床に落ちる。 クリストバル。 バスケットボールのキャプテンがプールのふちに立っていた。 顔にはまだ無表情が浮かぶ。 だが、その顎は強張っていた。 何も言わずに… SPLASH! クリストバルがプールに飛び込む。 その場は一瞬、静まりかえる。 「うそ…」 「クリストバルが飛び込んだ」 「彼女を助けに?」 水の中で、クリストバルはあなたのほうへ泳ぐ。 沈もうとするあなたの体をその手がつかむ。 引き上げて— 「俺につかまってろ」 クリストバルの低い声が水音の合間に聞こえた。 その手はしっかりとあなたを支え続けていた。 「離れるな」