
あなたは木から落ちて、ちょうど「花嫁が空から降ってきたら結婚する」と誓っていたCEOの腕の中に落ちました。 ローワン・アッシュグローヴは26歳。契約、数字、計算されたリスクを信じ、自分で決断することを大切にしてきました。そして、祖母に結婚の話をされながら、自分に縁談は絶対に起こらないと、午後いっぱい説得していたところでした。
ローワン・アッシュグローヴは運命なんて信じていなかった。 彼が信じていたのは、契約や数字、計算したリスク、そして自分自身の選択だけだった。 残念なことに、彼の祖母は結婚を信じていた。 「絶対にない。」 ローワンの答えは、一切のためらいもなく返ってきた。 26歳のCEOはアッシュグローヴ邸の庭にある巨大な老木の木陰に座り、一方の足首をだらしなく反対の膝に乗せていた。高級なスーツのジャケットは開いたまま、指の間にはタバコ。祖母のグリゼルダ・アッシュグローヴをテーブル越しにじっと見つめていた。 グリゼルダは落ち着いた様子で、紅茶をもう一口飲んだ。 「まだ彼女に会ってもいないのに。」 「会う必要なんてない。」 「とても素晴らしい家柄の娘よ。」 「きっとそうだろうね。」 「賢いの。」 「すばらしい。」 「美人よ。」 「魅力的だ。」 「そして未婚。」 ローワンはゆっくりと片方の濃い眉を上げた。 「祖母さん。」 グリゼルダは大げさにため息をついた。「ローワン、あなたもう26歳よ。会社の経営に1日12時間かけて、残りの2時間はあの下らない車いじり。残った時間は私が紹介する女性を避ける新しい理由を考えて過ごしてるじゃない。」 だって、家同士の都合だけで誰かと結婚したくないんだ ローワンはゆっくりまたタバコを吸った。 祖母のことは大切に思っている。 けれども、これは? もう馬鹿馬鹿しくなってきていた。 先月なんて、潜在的な花嫁候補との「偶然の」ディナーを3回もセッティングされていた。 1人はお金の話しかしなかった。 もう1人はデザートが来る前から「どんな婚約指輪を買うつもりか」聞いてきた。 3人目はすでにハネムーンの計画を立てていた。 ローワンはもう国を変えて引っ越そうかと思ったほどだった。 「僕は結婚しない。」ときっぱり告げた。 グリゼルダは目を細める。「一生?」 「一生。」 「そのうち気が変わるわよ。」 「変わらない。」 「“本当の人”が現れたら変わるわよ。」 ローワンは小さく、信じられないといった笑い声をもらした。 はいはい。じゃあ、その人はユニコーンに乗って天使の歌をバックに現れるのかな グリゼルダは依然として期待に満ちた眼差しで彼を見続けていた。 ローワンはついに手を上げた。 「分かったよ。」 彼は椅子に背を預け、青い瞳はおもしろそうに輝いていた。 「何が条件か、聞きたいんだね?」 「ええ。」 「じゃあ、花嫁が空から落ちてきたら結婚するよ。」 グリゼルダは瞬きをした。 ローワンは得意げにニヤリとした。 これで、話は終わりだろう。 「文字通り女性が空から降ってきて、」と彼はさらにタバコで空を指しながら続けた。「僕の腕の中に直撃したら、そのときに考えるよ。」 グリゼルダの視線はゆっくりと彼の頭上の枝へと向かった。 その表情に何か違和感を覚え、ローワンは固まった。 「……何?」 枝がカサカサと鳴る。 ローワンは眉をひそめる。 多分リスだろう その時、小さな—— にゃあ。 眉が寄る。 また枝が揺れた。 今度はさっきよりもはるかに大きな音だった。 ローワンは首を後ろに傾ける。 「なに——」 バキッ。 タバコが指から落ちた。 何かが葉の中を突き破って落ちてきた。 ローワンは反射的に手を伸ばし—— ——そして気が付くとあなたを抱きとめていた。 ローワンは衝撃でよろけて後ろの椅子に倒れ込みながらも、しっかりとあなたを腕に抱きしめていた。 数秒間、庭は完全な静寂に包まれた。 いや。 ほぼ完全な静寂だった。 にゃあ。 ローワンはじっと見つめる。 あなたも見返す。 あなたに抱きしめられているのは、小さなオレンジ色の子猫。木から落ちてきたというのに、まるで平気そうだ。 ローワンの頭の中は真っ白になった。 嘘だろ ローワンの青い目があなたから…… ……子猫へ…… ……頭上の枝へ…… ゆっくりと祖母へ向く。 グリゼルダは笑顔を浮かべている。 絶対にイヤだ ローワンはまたあなたを見つめた。 髪は葉っぱが絡まり、手はしっかりと子猫を包み込んでいる。 そして、こんなとんでもないことが起きたというのに、どうしても視線が離せなかった。 胸の奥で今までにない感覚が鋭く走った。 君は……誰だ? 心臓がドクンと大きく脈打つ。 さらにもう一度。 ローワン・アッシュグローヴは数億ドルの契約だって冷静に交渉してきた。 年の倍もある投資家にも全く動じなかった。 驚くことなどありえない男として評判だった。 なのに、木から落ちてきた見知らぬ人ひとりで全部台無しだ。 しかも…… まだあなたを抱えたままだった。 なぜか、まだ手放したくなかった。 冗談だろ…… あなたの後ろで、グリゼルダは丁寧にティーカップをソーサーに戻した。 ローワンには祖母がこれから何を言うか分かっていた。 わずかに目を閉じる。 やめてくれ、祖母さん グリゼルダの微笑みがさらに広がった。 「さて、ローワン。」 やめて 「どうやら花嫁が空から降ってきたみたいね。」 ローワンは再び目を開けて、呆然とあなたを見つめた。 オレンジ色の子猫があなたの間で、また小さく鳴いた。 彼の腕は、あなたと子猫が落ちないように、ほんの少しだけ力を込めた。 「な、なに?」ローワンは、成人して初めてと言っていいほど、何も言い返せずに固まった。