
アカデミーの学生の九十九パーセントは獣人。あなたは残りの一パーセント——奨学生の人間で、あのキャンパスにただ一人、獣の姿を持たない人だ。
アカデミーでの初日だ。 獣人のアカデミー。 人間として。 その違いは、無視しようがない。 ここの学生のほぼ九十九パーセントは獣人だ。狼、狐、猫、鳥、蛇、熊、虫、幻獣、そしてその間のありとあらゆる種族。 あなたは例外。 奨学生。 この国でも指折りの名門大学に、どういうわけか入学を勝ち取った人間。 両親には学費が払えなかった。全然足りなかった。 だから全額奨学金つきの合格通知が届いたとき、受けるかどうか迷う余地はほとんどなかった。 もちろん受けるに決まっている。 たとえキャンパスでただ一人の人間になるとしても。 たとえここにいる全員が、あなたにないものを持っていたとしても。 獣の姿。 種族の本能。 身体能力。 「えっと、それでね……」 隣を歩くウサギの獣人が、手にしたオリエンテーションの地図に目を落とす。 小柄で明るく、押しつけがましいくらいフレンドリーな彼女の髪から、柔らかな茶色の耳がのぞいている。 「寮はこっち、大講義室はあっち、食堂は——」 彼女が足を止める。 耳がぴくりと動く。 一度。 二度。 そして、どうやらあなたがまだ知らない、とても細かな決まりごとがあるらしい。 あなたは彼女を見る。 「どうしたの?」 ウサギの目が、ゆっくり空へ向かう。 表情がすっかり変わる。 「あ。」 「なに?」 「あ、だめだ。」 彼女が一歩、後ずさる。 もう一歩。 あなたも彼女の視線を追う。 最初は、空しか見えない。 やがて影が中庭を横切る。 巨大な。 一対の巨大な翼が、陽光を切り裂く。 音が遅れてやってくる。 木々をしならせ、舗道の紙をまき散らす、深く力強い風の唸り。 案内役の彼女は完全に固まっている。 「あれ、ドラゴンだよ。」 あなたはまばたきする。 「ドラゴン?」 「うん。」 ウサギの声が急に、とても小さくなる。 「正真正銘のドラゴン。」 あなたはもう一度見上げる。 今度は、彼の姿が見える。 巨大な黒いドラゴンがアカデミーの上空を旋回している。鱗が陽光を受けて、暗い青銅色の閃きを放つ。翼はありえないほど広く伸び、長い尾が背後の空を切る。 彼は巨大だ。 大きい、ではない。 巨大、だ。 ドラゴンが中央の中庭の上で鋭く旋回する。 案内役の耳がぺたりと伏せる。 「あ、移動するよ。」 彼女があなたの腕をつかむ。 「行こう。」 「どこへ?」 「ここ以外ならどこでも。」 彼女はあなたを中庭の端へ引っ張っていく。 けれどあなたはまだ、目の前のものが何なのか理解しようとしている。 ドラゴンが急降下する。 周りの学生が一斉に散る。 走る者。 しゃがみ込む者。 そして、奇妙なことが起こる。 隣のウサギが消える。 半秒ほど、何が起きたのか分からない。 次の瞬間、小さな茶色のウサギが芝生を全力で駆けていくのが見える。 あなたはぽかんと口を開ける。 「待っ——」 ウサギは待たない。 走る。 あなたはその後ろ姿を呆然と見送る。 「冗談でしょ。」 咆哮が中庭を震わせる。 あなたは見上げる。 ドラゴンはアカデミーの真上を一直線に向かってくる。 みんなが動いている理由を、ようやく理解する。 あなたは横に一歩踏み出す。 足りない。 ドラゴンが頭上をかすめる。 熱の波が中庭を駆け抜ける。 あなたは反射的に腕で顔をかばう。 そして—— ゴオォッ。 熱が体をかすめて過ぎる。 服が風に激しくはためく。 何かがひっかかる。 あなたは視線を落とす。 トップスの前面が焦げて、半分燃え落ち、布が無残な切れ端となって垂れている。 あなたはそれを見つめる。 それから、ゆっくりと顔を上げる。 ドラゴンはもう頭上を通り過ぎている。 彼は一度旋回する。 そして、降り立つ。 衝撃で地面が震える。 学生たちがいっせいに後ずさりを始める。 ドラゴンの体が変わっていく。 鱗が引っ込む。 翼が畳まれる。 骨が組み変わる。 そして数秒のうちに、巨大な生き物は一人の男になる。 背が高い。 肩幅が広い。 黒髪。 変身のせいで服は少し乱れ、首筋に青銅色の鱗のかすかな跡が残っていたが、それも肌の下へ消えていく。 彼は完全な無関心で中庭を見回す。 あなたと目が合うまでは。 彼は動きを止める。 金色の瞳があなたの顔から…… ぼろぼろのトップスへ…… そしてまた顔へ戻る。 初めて、彼の表情が変わる。 驚きの揺らぎ。 「人間か。」 あなたは中庭を見回す。 獣人たちが全員、こちらを見ている。 案内役のウサギの姿はどこにもない。 あなたは彼に視線を戻す。 「みたいですね。」 彼の口の端がぴくりと動く。 笑みとまでは言えない。 視線はあなたに据えられたままだ。 「避けるべきだった。」 あなたは半分焼けたシャツに目を落とす。 それから彼を見る。 「避けようとしました。」 沈黙が一拍。 背後で、誰かがささやく。 「あの子、あの人に口答えしてる。」 別の声が答える。 「人間だもの。知らないのよ。」 サラスの視線が鋭くなる。 彼がゆっくりと一歩、あなたに近づく。 そのとき、オリエンテーションの冊子に書かれていなかったことを、突然理解する。 あなたはただ獣人だらけの大学に来たのではない。 その中には、周りの誰もが本能的に怯えるほど強力な者がいる大学に来たのだ。 そしてどうやら、そのうち最強の一人に、あなたは目を留められてしまったらしい。