
三年間の「愛してる」。そして、あのひとつのパブリックなキスを部屋の向こうから見届ける羽目になる。そのキスは、あなたのものではなかった。 ケイジー・パージェターはかつて隣に住む少年だったが、今や観客席が声をそろえて呼ぶ“ヒーロー”になった。彼は当時あなたと同じ気持ちだと言い、大学で地に足がつくまで待ってくれと言った。今夜、勝利パーティーでのマッチメイキングゲームは、彼の名前をチアリーダーのキャプテンの隣に置いた。あなたのスマホには今も彼からの最後のメッセージが光っている。
ツリーハウスは二つの庭の間に立ち、どちらの母親でも夕食ができたときに裏口から呼べる距離だった。その入り口は、まっすぐになったことがなかった。ケイジー・パージェターは「木が傾いてるだけ、測り方は悪くない」と主張し、中の斜めの棚が今もその証拠を示している。大学に行く前、そこで彼はあなたにキスした。広い肩と緊張した笑い声、太い黒髪の前髪が左眉の白い傷を隠すように垂れて、こう言った。 「僕も同じ気持ちだよ。それは…見てわからなかった?」 そのあと、待ってほしいという頼みがやってきた。大学で落ち着くまで。新入生のスタメンクォーターバックに注目が集まらなくなるまで。三年経った今も、どちらの母親もまだ知らない。キャンパスでのあなたは子供のころの友人扱い。練習では水筒を、ドリルの後はタオルを、彼がケガを見せなかったときは氷を用意する人。チームメイトには“あからさまに世話を焼くヤツ”と笑われ、ケイジーはみんなが内輪の冗談だと言わんばかりに微笑み、その後にあなたのスマホが彼の名前で光る。 「愛してるって、知ってるだろ」 そこにカシア・ブランカスターが現れた。彼のタオルを取っても彼は笑顔で許す。フットワークが下手だと指摘しても、首の後ろをかきながら笑う。彼女が水を渡せば「キャプテンの役目」と冗談を言い、チームメイトたちが「夫婦みたい」と茶化せば、彼は彼女の肩に腕を回した。必ずあなたには次のメッセージが届く。画面一枚に収まるほどの小さな言い訳が。 今夜、ヘロンズは優勝への望みをつなぐ勝利を収め、クインシー・ハークアウェイのレンタルハウスは人で埋まっていた。キッチンの戸棚が音楽で震え、誰かがチームフラッグをランプシェードにかけている。ケイジーはリビングのソファのそばに立ち、ポストゲームのシャワーから上がったばかりで、まだ髪が少し濡れている。パーティーが始まって2時間、クインシーが階段の一番下段に乗り、片腕でボウルを抱え、もう片手にはスマートウォッチを2つぶら下げて観客を見渡した。 「よし、マッチメイキングだ。名前をボウルに。2人、2つのウォッチ。2人とも心拍アラームが鳴ったらキスして、ボウルから消える。鳴らなかったら名前は戻して繰り返し。」 ニッキー・ホバートがひじ掛け椅子から顔を上げた。 「それが君の“科学的プロセス”全部?」 クインシーはウォッチを振る。 「“科学的プロセス”は、黙ってペン探してくれだ。」 最初の数ラウンドは笑いとわざとらしいアイコンタクト、夕方からずっとイチャついていた2人のキスで盛り上がった。失敗ペアは名札が戻される。ついに、あなたとケイジーの名前が読み上げられた。 ケイジーは少し傾いた笑みを浮かべ、他の人たちが間を空けてくれる中に一歩踏み込んだ。しばし、あなたに向ける目はツリーハウスの頃と同じやさしさだった。ウォッチが留められる。あなたのウォッチはすぐにビープ音を発した。ケイジーのは静かなまま。クインシーが歓喜の声をあげる。 「ほらな~、ウォッチなくても分かってたじゃん!」 ソファそばの誰かがプラスチックカップに笑いを漏らす。 「三年も水筒係してるとは忠実すぎ」 クインシーが2本のウォッチを指して言う。 「な?片思いだろ。片方は最初から興味ないの」 ケイジーは手首を見る。それからチームメイトの方に、あの歪んだ微笑みのまま顔を向けた。 「なあ、みんな、子供のころの友達なんだから放っといてくれよ」 幼なじみ。あなたはウォッチの留め具を外し、涙を隠すように後ずさる。クインシーは気付くこともなくそれを受け取り、「両方とも名前をボウルに戻す」と発表している。 スマホが振動する。ケイジーは数歩離れたところで自分のスマホを手にしている。あなたの画面には彼のメッセージが表示された。 「皆の言うこと気にするな。愛してるよ。パーティーの後ツリーハウスで会おう」 彼は一瞬だけ視線を合わせ、それで十分だと言いたげだった。ゲームはそのまま続いていく。 キッチンではマルタ・ケトルウェルが空きボトルのリサイクルをめぐって口論中。クインシーがボウルを振ると、ニッキーは前のめりになる。折り畳んだ名前札が靴に落ちる。 「ケイジー、また君だぞ」 ケイジーは気軽な笑いを漏らす。 「どうもボウルに気に入られてるみたいだ」 クインシーが二つ目の名前を広げる。その顔は更ににやける。 「カシア」 彼女より先に部屋が沸いた。 「きたこれ」「やっとだ」「とっとと付き合っちゃえよ!」 カシアは目をぐるりと回しつつ、でも口元は笑っている。マントルピースの上にカップを置くと、銅色の巻き髪が肩にかかる。 「恥かかせないでよ、パージェター」 ケイジーが首の後ろをかく。 「クインシーが実況してんじゃん、もう遅い」 いつもの癖。インタビューも満員のスタジアムも平然と渡る自信の、その裏にあるちいさな隙間。クインシーがウォッチを渡す。カシアの方のアラームが鳴る。すぐにケイジーのも反応する。歓声が上がり、ニッキーが口笛を吹く。カシアはケイジーの手首を、続いて顔を見上げ、からかうような表情が期待の色に変わる。 ケイジーは彼女越しにあなたの方を見る。手にはまだスマホがある。親指が画面をなぞる。再び振動。 「意味なんてない」 彼はスマホをロックしてポケットに落とす。笑い飛ばす余地も、断る余地もまだある。誰も彼をその場につなぎ止めていない。けれどケイジーはカシアに歩み寄る。 彼の手は彼女の腰へ。カシアの手は彼の肩から緑のシャツをぎゅっとつまみ、ケイジーは頭を傾けて彼女に口づけた。歓声が沸いたそのあとも、キスは終わらなかった。彼女を引き寄せ、頭を傾け直し、最初のキスが終わる前にもう一度キスした。カシアの手が首の後ろへ移り、ケイジーはそのまま彼女と重なる。あなたには見せたことのない飢えたようなキス。クインシーは階段のそばで歓声を上げ、ようやくケイジーは顔を上げるが、手はまだカシアの腰に残る。 あなたのスマホには、最後のメッセージが浮かんだまま。 「意味なんてない」