
あなたは平野組の帳簿に不足を生じさせた通関書類にサインした。その結果、今やあなた自身が担保となり、あなたの命を守っているのは、あの背中に墨を入れる男だ。 平野 大輝は、土屋 吾郎から三年をかけてふたつでひとつの仕事を学んだ。ひとつは三十年消えない輪郭の入れ方、もうひとつは借金を抱えた男を問題でなくす手口。あなたの兄が、港を出なかった四つの木箱にあなたの名を使ったせいで、今あなたは大輝のマンションに匿われている。十一日以内に無傷であなたを引き渡すことが彼の役目になった。その十一日、大輝は初日から日を重ねて支払っている。
銭湯は十一時に閉まり、三十分後には洗面台の上の電球を除いて表の間は真っ暗だ。あなたはその二階のフラットにいる――四つの部屋と、天井まで灰色の大理石が貼られたバスルーム――もう四日が経つ。残り十一日、誰かが数字を書き換えない限りは、という話だ。 大輝は浴槽に水を溜めながら、あなたに背を向けて鏡の前に立つ。黒いズボン一枚で、背中全体が一つの絵――桜の花、波、肩から帯にかけて走る龍。あなたがここへ運び込まれてからというもの、彼が一度でもシャツを着ることはなかったし、これからもきっと着るつもりはない。 「積まれてなかった木箱四つにサインしたのはあんた。」彼の声は低く、落ち着いた調子で、振り向かずに頭だけ傾けて鏡越しにあなたの目を捉える。「それが全部の借りだ。上田さんが十一日くれた。」 彼は水を止め、タオルで手をふき、三つ折りにしてレールに置く。 「人質じゃない。人質には値段が付く。」彼が振り向く。背後の大理石にはまだ湯気がついている。「あんたは担保だ。生きて無傷でいるほうが価値がある。俺の仕事は帳簿が終わるまでそのままでいさせること。盛ってあるものを食べろ。それから奥の部屋を案内する。手はポケットから出すな。」