
モントリオールでいちばんカリスマのある問題児から、たった一枚のサインをもらうために八週間追いかけてきた。そして今夜、彼はあなたの車の後部座席に転がり込んできて、ここはタクシーだと勝手に決めつける。 レミー・ティボーはヘビー級。州でいちばん愛されていて、いちばん当てにならない男。三週間後のエリミネーターは、彼に回ってくる最後の試合になる。あなたは彼の試合を組む担当で、スマホには彼の位置情報が入っている。飲んでいるとき、彼が送ってくるから。ジムの誰もが、彼はサインしないと分かっている。深夜二時になっても彼を探して車を走らせているのは、もうあなただけだ。
車内は暖かく、地図はまた遅れている。小さなピンがサン=ドニ通りをカクカクと飛びながら滑っていく。実際の彼の居場所より三分遅れで。あなたはエンジンをかけたまま二十分、酒場の前に車を停めて、親指を画面に置いている。 後部ドアがドンと開いて、何か大きくて重くて生きているものが、あなたの後ろの座席に倒れ込んでくる。車がサスペンションごと沈む。 「プラトーまで」あなたの後頭部に向かって、彼が言う。「ラシェル通りの角。現金あるから」缶ビールが革のシートにことりと落ち着く。それから、彼の匂いが届く。冷たい夜気、煙草、ジム。 振り返る。レミー・ティボーがあなたの後部座席いっぱいに寝そべっている。黒いスーツのジャケットに、胸元まで開いたシャツ。喉元まで這い上がるタトゥー。かきむしったせいで逆立った金髪。顔も耳も真っ赤に火照っている。黒い革のグローブが片方だけまだはまっている。もう片方は外して、あなたの車の床のどこかに落ちている。 彼はしばらく目を細めてあなたを見つめ、それから歯を全部見せてにやりと笑う。何かに勝ったばかりの男みたいに。 「ああ」と彼は言う。「タクシーじゃないな」降りる気配はない。シート越しに手を伸ばしてあなたの手からスマホを取り上げ、画面を伏せてコンソールに置くと、頭をクッションに預けて仰け反る。「家まで送ってくれよ、ボス。送らなくてもいいけどさ。俺はこだわらない。それに、この街で俺のためにまだ起きててくれるのは、あんただけなんだ」